赤瀬温泉再訪
赤瀬温泉方面行きのバスは,1997年当時には北陸電鉄が運行していたが,現在は分離子会社化された小松バスの管轄にある(車体は新造かと思ったら,外装が綺麗に塗り直されただけだった)。赤瀬温泉へ向かうバスは1日4往復,運賃は650円で,往時とさほど変わりない。利用状況を考えると良心的といえるだろう。今日も客は私を含めて5人ほどで,しかも赤瀬温泉まで乗っていたのは私だけだった(そこから終点までは空気を運ぶことになる)。もっとも,今日は土曜だったので,平日なら高校生などの利用が見込めるのかもしれない。
特筆すべきは「赤瀬温泉」の停留所名が存続されていることだろう。しかも記憶では,弁天閣の周辺に民家は見当たらなかった。その点に一縷の望みを抱いていたことは,ここに告白しておく。
停留所と,そこからの脇道。記憶通りの風景。
小松駅を13時10分に出発したバスは,駅西側の旧市街地(市役所周辺)を経由した後,駅東側・山麓の住宅地をすり抜けるように巡り,やがて山間部へと突入していく。途中見覚えのある光景を幾度も見るが,決定的な違いは積雪の有無だ。過去2回はどちらも雪が積もっていて,バスも慎重に進んだが,12月上旬の今日はまだまだ晩秋といった雰囲気だ。陽射しこそ傾いているものの,暖かい。
赤瀬温泉停留所で降りると,バスの中は運転手だけになった。その後ろ姿を見送り,辺りを見回す。県道から分岐する道を進めば,やがて赤瀬ダムと弁天閣が見えてくる...はずだった。
果たして,ダムはそこにあったが,弁天閣は完全に姿を消していた。事前の情報通り,完全な更地だ。弁天宗の施設と,裏手に見えた川だけが往時の姿を留めている。
荒れ地に足を踏み入れ,この辺が玄関,このあたりが食堂...と,記憶を掘り起こしながら歩いてみた。その痕跡は見当たらず,ただ草だけが生い茂っている。冬の斜陽と,雑草の向こうに望めるダムのグレーとが,私の心を寂しくした。
跡地は完全な更地。周囲の看板だけが当時の面影を残している。
折り返しのバスがやって来た。運転手だけを乗せて。
折り返しのバスで小松駅へと戻った。ちょうど,冬の短い日が暮れようとしていた頃だ。赤瀬温泉がどうして無くなってしまったのか,本当のところは私には分からない。ただ,それが失われてしまったことを納得するだけで,今は精いっぱいだ。
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