歪曲劇場

貧乏人は死ねない

正月にはふさわしくない話題かもしれないが、割と大切なことだと思うので、忘れないうちに。

つい数日前、親戚が亡くなった。話によると、朝食中に突然意識を失い、病院に運ばれた時点ですでに脳死状態と判断されたらしい(厳密な脳死判定基準を満たすものではないと思われるが、この際それは措く)。心停止に至ったのは翌未明であった。

この親戚は以前から血圧が高かったので、その意味では特に驚くには当たらないのだが、医者はこれを「突然死」の一種と判断し、警察に届け出た。警察は一応事情聴取や自宅の現場検証を行ったらしい。これもまあ、青天の霹靂とはいえ、一応筋が通っている。

問題はこの後だ。このような場合、通常の医療行為の結果としての死亡診断書ではなく、検視の結果としての「死亡検案書」というのが必要になるらしい。翌朝、警察の手配により某大学の法医学教室の教授がやって来た。そして、検案書の作成費用として5万円を現金で要求されたというのである。ごまんえんも。

一般的な医療費や葬儀費用の全体から見れば5万円というのはある意味リーズナブルなものではあるが、やっぱり何か変だなと思うのが日常的な感覚だと思う。少し具体的に整理してみよう。

第一に、通常の死亡診断書はせいぜい数千円で書いてもらうことができるのに、5万円というのは高すぎる。第二に、この検視はあくまで行政の都合によって行われているのに、その費用を負担させられるというのは納得がいかない。第三に、必要な費用の根拠に関する説明が行われた形跡がない。さらに胡散臭いのは、この医師が現金での支払いを要求し、教授の肩書きを吹聴するくせに個人名義の領収書を発行したという事実である(しかも、受け取った現金をそのままポケットにねじ込んだのだという)。 そもそも、役所に死亡届を出すのに多額の費用が必要ということ自体、理解のしようがない。

で、これってもしかして騙されたんじゃないか、と思って調べてみたところ、どうもそういうわけでもないらしい。少なくとも違法性は全く無い。

東京都区内や大阪市、神戸市などには「監察医制度」というものが整備されており、このような検視業務を公費で行っている。しかしその他の多数の自治体では、警察から個人的に嘱託された「警察医(警察協力医)」がこの種の業務を行っているのだそうだ。この場合、費用は原則遺族の負担になり、しかもその算定基準は特に定められていないようである。

というわけで、領収書が個人名なのは当然だし、もし5万円が50万円だったとしても断れないことになる(この場合の検視は義務だから)。説明不足は違法とまではいえないだろうし、「納得がいかないこと」はこの際法律とは全然関係ない。つまり、こちらは言うなりに払うしかない。もし払えなかった場合にどうなるのかは知らないが。

そんなわけで、もしあなたが突然死、事故死、自殺などを考えているなら、東京都区内、大阪市内、神戸市内、名古屋市内がお勧めである。遺族の負担が数万円以上違ってくるし、不透明な制度に腹を立てる必要もない。

なお、医者の立場から言えば、こんな金額じゃ全然割に合わないので、もっと公費の予算を付けろ、ということらしい。 理屈は分かるが、人に愛されたければもう少し物の言い方を考えた方が良いと思う。

posted at 02:07:30 on 2006-01-01 by ichiro - Category: 時事

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